【レビュー】私が「女つらぁ…」と唸って泣いた『82年生まれ、キム・ジヨン』ってこんな作品。

82年生まれ、キム・ジヨン 本レビュー
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こんにちは、森雨です。

今回は『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだのでそのレビューをお送りします。

少し前に結構話題になっていた本で、知っている人も多いと思います。
私も80年代生まれなので「同世代♪」と思って手に取ったんですが、もー泣いて泣いて大変でした。

なんでこんなに泣けるのか!?

ソファーでティッシュ片手に読みました。

子どもを持つとどうしても涙腺が緩くてね…なんて言いながら鼻をかんでいました。

この記事を読むとわかること

  • そもそも『82年生まれ、キム・ジヨン』はどんな作品なのか
  • なぜ私が『キム・ジヨン』を読んで泣いたのか
  • 母親世代の韓国人女性と日本人女性との違い

私が泣いた理由を知りたい人はぜひ読んでみてください。。

知りたくない人もぜひ本は手に取ってみてください。

目次

チョ・ナムジョ著『82年生まれ、キム・ジヨン』ってこんな作品

『82年生まれ、キム・ジヨン』Amazonより抜粋

ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかのようなキム・ジヨン。
誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児…彼女の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。
女性が人生で出会う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした話題作!

韓国で100万部突破!異例の大ベストセラー小説、ついに邦訳刊行。

本の内容のほぼ大半はキム・ジヨン氏(33歳)のそれまでの人生の回想です。
実家にいた子どもの頃からキム・ジヨン氏の周りでどんなことがあって、どんな人生だったのか。

特筆すべきなのは、このキム・ジヨン氏がごくごく一般的な韓国人女性(妻であり、母)だということ。

この一般的な女性が、これまでどんな生き方をしてきたのかが描かれているんですが

その生きざまの中で、社会に未だはびこる女性たちへの差別とその苦悩が淡々と書かれています。

アジア圏の女性として生きてきた人ならどれも心当たりがあり、またしっかり染みついた自分自身への歪みにも気づけるはず。

『キム・ジヨン』とは、82年生まれの韓国人女性の中で最も多い名前なんだそうです。
つまり、ごく普通の82年生まれのごく一般的なの女性のことについて著者は書きたかったんですね。

『82年生まれ、キム・ジヨン』Amazon紹介文より抜粋

K-POPアイドルユニット、Red Velvetのアイリーンが本書を読んだと発言したところ、一部男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」として一斉に反発、アイリーンの写真やグッズを破損する様子を動画投稿サイトに投稿するという事態も起きました。

少女時代・スヨンは「読んだ後、何でもないと思っていたことが思い浮かんだ。女性という理由で受けてきた不平等なことが思い出され、急襲を受けた気分だった」(『90年生まれチェ・スヨン』より)と、BTS・RMは「示唆するところが格別で、印象深かった」(NAVERVライブ生放送より)と本書にコメントを寄せました。

すでに映画化が決まっているくらい、とにかく話題の作品なんですよね。

『82年生まれ、キム・ジヨン』私が泣いた理由

私が泣いたのは、全ての日本人女性が『キム・ジヨン』であると痛感したからです。
韓国人女性たちがこぞって「これは私の物語だ」というのと同じく、日本人女性にも全く同じことが言えると感じたから。

いくつか抜粋してみます。

つまり、病的なまでに、未だに、戦後何十年経っても、民主主義を謡っても、東アジアでは女性差別がはびこっている証拠なんですよ。

だがキム・ジヨン氏はその日、父にひどく叱られた。何でそんな遠くの予備校に行くんだ、何で誰とでも口をきくんだ、何でスカートがそんなに短いんだ……。そんなふうに育てられてきたのだった。気をつけろ、服装をきちんとしろ、立ち居振る舞いを正せ、危ない道、危ない時間、危ない人はちゃんと見分けて避けなさいと。気づかずに避けられなかったら、それは本人が悪いんだと。

痴漢に遭うのは、女性の格好が悪いから。
制服のスカートが短いから、みだらな服装をしているから、隙があったから。と言われたこと、無いですか?

ジヨン氏が子どもの頃から、家庭や学校で常に『性への償い』が始まっていたんです。

女の子なんだから我慢しなさい。

女の子なんだから男の子を優先しなさい。

女の子なんだからおとなしくしてなさい。

女の子なんだから男の子を許しなさい。

女の子なんだからお手伝いしなさい。

女の子なんだから短大でいいだろう。

男女平等を謳う社会で生きてきたはずなのに、祖母の時代から受け継がれてきた性差別は無くならないんです。
辛い思いをしながら生きてきた祖母から母へ、母から、娘へ。

就職、出産してもそれはまだ続きます。

「でもさ、ジヨン、失うもののことばかり考えないで、得るものについて考えてごらんよ。親になることがどんなに意味のある、感動的なことかをさ。それに、ほんとに預け先がなくて、最悪、君が会社を辞めることになったとしても心配しないで。僕が責任を持つから。君にお金を稼いでこいなんて言わないから」

「それで、あなたが失うものはなんなの?」

「え?」

「失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友だちっていう社会的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だから失うもののことばっかり考えちゃうんだよ。だけど、あなたは何を失うの?」

周囲は子どもを産めと言うのに、妊娠してからは職場で時短勤務で「楽をしている」と言われる。
満員電車での通勤。徐々に自由がきかなくなる体。

「そんな腹になるまで地下鉄に乗って働くような人が、何で子どもなんか産むのさ」
突然どっと涙があふれた。私ってそういう人なのか。そうまでして稼がなきゃならない人。お腹が大きくなってまで、地下鉄に乗って。
涙を隠すことも顔を覆うこともできず、大粒の涙がぼろぼろあふれつづけ、キム・ジヨン氏は次の駅であたふたと降りてしまった。

出産したら、ただただ毎日淡々とした子育てが待っている。
その子育てにはそれまでのスキルは反映されないんですよね。

どこの大学を出て、何を専攻したか。

何を信じ、何を頑張ってきたか。

夫は毎日会社に行って以前と変わらない日々で、妻は毎日家で報われない家事と孤独な育児。
それを幸せと感じる人もいるし、地獄だという人もいます。

俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなあ……ママ虫もいいご身分だよな……韓国の女なんかと結婚するもんじゃないぜ……。

(中略)

「ママ虫なんだって、私」

その答えに、チョン・デヒョン氏は長いため息を漏らした。

「そんな書き込み、全部、小学生が書いてるんだよ。インターネットに出てくるだけで、実際に言う人なんかいないよ。誰もそんなこと思ってない」

「違うよ。さっき私、この耳で聞いたもん。あそこの道渡ったところの公園で、30歳くらいの、スーツ着てちゃんとした男の人たちがそう私に言ったんだよ」

たまたま、子どもが寝た後にチェーンの喫茶店で(日本円で150円くらいの)コーヒーを飲んでいたジヨン氏が近くにいた男たちから「ママ虫」(専業主婦を馬鹿にする言葉)と言われて震えるほど傷つくシーン。
ここでジヨン氏は夫に怒りと悲しみを爆発させます。

「私は1500ウォンのコーヒー一杯も飲む価値がないの? ううん、1500ウォンじゃなくたって、1500万ウォンだって同じだよね。
私の夫が稼いだお金で私が何を買おうと、そんなのうちの問題でしょ。私があなたのお金を盗んだわけでもないのに。
死ぬほど痛い思いして赤ちゃん産んで、私の生活も、仕事も、夢も捨てて、自分の人生や私自身のことはほったらかして子ども育ててるのに、虫だって。害虫だって。私、どうすればいい?」

「ママ虫」というのは、よくあるネットスラング(ネット上の俗語)のようです。
日本でもよくありますよね。あまりにもネットが生活圏に侵入してきて、みんな普通に使っていたり、平気で口に出したりするんですよ。

現実を5ちゃんねるの掲示板だと思っている人もいるんじゃないですか。

どれもジヨン氏がぶつかる問題は、日本でも女性が抱える葛藤なんです。
文化の違いがーということもない。この性差別に国の違いなんかないんです。驚くべきことに。

この「150円くらいのコーヒー一杯でママ虫の件」は、極端だと思われる男性がいるかもしれない。
でも、実際社会では「いいよな、夫が500円ランチなのに専業主婦どもは」「男に養ってもらってているくせに」と平日に友達と楽しそうにランチしている女性たちを見てそういう人だっているでしょう。

要するに「楽している」と思われるんですよ。
専業主婦でも共働きであっても、とにかく女性は男が必死で働いているのに、っていう人がいることは確かです。

主婦が楽じゃないのは、主婦をしている人なら誰だって知っています。
特に小さい子どもがいて、育児もしている人にとっては働いているほうが正直楽な面だってたくさんあるんです。

こういう、想像できない人。しない人。
相手の立場に立つつもりもないのに、勝手に相手に侵入してきて自分の価値観だけでジャッジしている人いますよね。

それは相手が主婦や女性じゃなくてもいいんです。
障害者や、LGBT、生活保護受給者。

「楽してる」と思うから叩いていい、と勘違いしている人が昨今増えた気がします。

【韓国と日本】母親世代の女性たちは実は強い

このキム・ジヨン氏の夫さんはまだ理解があるように描かれているんですよ。
ひたすら慰めたり、家事や育児を「手伝うよ」と言ったり。。(そういうとこだぞ)

日本では最近ネットを中心に流行る主婦が主人公の漫画は夫に経済的に自立できていないがために、ひどい扱いをされることに対する葛藤をよく抱えてます。
そしてそれに対し日本中の女性が共感している。

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専業主婦が楽で幸せとは言い切れないことくらい、私はわかります。
共働きの主婦が悠々自適で輝いているとは言い切れないことも、私はわかります。

男女平等とは、男女のみならず、女性も互いに理解するべく努力することが必要なんですよね。

だから、キム・ジヨンの物語を私はどちらかというと男性に読んで欲しいんです。

でもきっと読まないでしょう。
「不愉快だ!」「これ一部の男でしょ。俺は違う」「男だって苦労している」と言ってはねのけてしまう人のほうが多いでしょう。

共感しろとは言わないまでも、知って理解することくらいはできるはずなのに。

本当の性教育ってこういうことかもしれません。
せめて私たちの息子世代にはこのしこりを残さずいたいものです。

ところで、『82年生まれ、キム・ジヨン』のあとがきには韓国と日本の当時の社会情勢についての解説が掲載されていてとても勉強になります。
韓国の男女平等を阻害している一端に兵役があることも、韓国では母親たちがジヨンの時代から教育には特に力を入れていることも知りませんでした。

日本では私たち(30代~)の母親世代に毒親が多いですよね。
『毒親』と言われ出したのも、ごく最近です。

韓国では母親世代の女性たちが割をくってきた年代らしく、希望の大学に進学させてもらえなかったり、兄や弟を支えるために働きに出る人が多かったようです。
ここまでは日本とあまり変わらないんですが、韓国の母親世代たちは娘に教育をさせることで自分の雪辱を果たそうとしたんですね。

だから、キム・ジヨンの時代の女の子たちは夜遅くまで塾通いをしていたという描写があります。
そして、家族の為に必死でお金を作って店を買い、商売まではじめた。

母親世代の女性たちが非常にアグレッシブなのです。

ジヨンたち世代がキャリアを積めるように背中を押したのも、また彼女たち。

日本の母親世代の女性たちが娘をコントロールしようとしたり、自己憐憫に巻き込もうとするのもやはりあの世代が韓国人女性のあの世代と同じくらいエネルギーに満ち溢れていたからなんでしょうが…そこは日本人は逆に作用してしまったようですね(もちろんそうでない女性もたくさんいる)

アジア全体、いや世界中にジヨンはいる


どうでしたでしょう。世界中の『ジヨン』たち。

『#ME TOO』運動でも感じたんですが、今世界全体が差別に対する意識を改めている、いわゆる転換期にいるのだと思います。

「みんなちがって、みんないい」と教えられた私たちの世代が直面する社会にはどう考えても理不尽な現実があり、その現実に耐えられない人がまた新たにムーブメントを起こすのです。

『82年生まれ、キム・ジヨン』が一人でも多くの男性と、理不尽な世の中に慣れた多くの女性に読まれますように。

森雨でした。

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