この家族はこの国でたしかに生きているー是枝裕和監督『万引き家族』レビュー

映画レビュー
スポンサードリンク

こんにちは、森雨です。

先日ようやく『万引き家族』を観てきました。
そうです、カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞の今年一番の話題作です。

受賞時にはSNS界隈で「日本の恥部を描いた」と批判を受け、
「文部科学省の補助金を受けながら祝意を辞退した」など
とにかくその他の方面でも色々話題を呼んだ作品です。

高齢者の年金をあてにして生きる人間たち
労災のおりない日雇い労働者
風俗で働く女性
虐待を受けた少女

「日本の恥部」と発言した方はこういった方が日本には存在しないとでも思ったんでしょうか?

血のつながりのない人間たちがそこに『絆』を求めた理由と
犯罪を犯すという「誰にでも起こりえる罪悪」を見つめたときに
この国で生きている私たちに一つの疑問符を提示しています。

※この記事は「ネタバレ」しています※
鑑賞後に読むことをおすすめします!

目次

【『万引き家族』考察①】子どもの感じる、罪の意識

『万引き家族』というタイトル通り、家族は(全員ではないにしろ)万引きをはじめとした犯罪を犯しています。

万引き、というわかりやすいくらい身近な犯罪。
テレビでもよく万引きGメンと言っては万引きをする人を捕まえる人と万引きをする人の攻防戦が
放送されていますよね。きっと視聴率いいんでしょうね。

こういった軽犯罪は分かりやすい「身近な」犯罪です。
小さな子どもでも「お店の物を盗っちゃだめ」ということくらい理解できます。
だからこそ、大多数の一般人はそういった犯罪をする人間たちを自信をもって叩けるのです。

万引きを生活の一部としてやっていた祥太(城 桧吏)がある日いつも万引きをしている雑貨屋で
店主(柄本明)から「妹にはこれ、させるなよ」と言ってお菓子を持たせます。

それまでバレていない、と思っていたことが全て店主にはお見通しだった。
登場人物(家族五人)の中で初めて罪の意識を感じる祥太。

本物の家族のいない彼とって万引きとは家族を繋ぎとめる唯一の方法で、
そのために万引きの腕を磨いてきたんです。父(リリー・フランキー)のように生活に
困ってやっていたわけではなく、承認欲求として万引きをしていました。

そこに突然転がり込んできた妹ユリ(佐々木みゆ)も自分のときと同じように万引きを始めます。
罪悪などまるで感じていないその堂々とした素振りを見て、ずっと見ないようにしてきた疑念をふくらませていきます。

「お店の物をとってもいいの?」
「まだ誰のものでもないし、いいんじゃない。店が潰れない限り」

ところがそんなときに雑貨屋が『忌中』で「店が潰れた」と勘違いした祥太は
そのあと妹のユリを庇うようにして捕まるんです。

万引きは悪い。お店の物はお金を払わないといけない。

という当たり前の社会のルールを当たり前の福祉も受けられず社会から逸脱した少年が最後に守ろうとする姿。

それを見れば「いや、犯罪は犯罪!躾のなってないガキ!」「万引きを肯定している」なんて
いかに的外れな発言かが分かると思います。

【『万引き家族』考察②】貧困という「自己責任」

リリー・フランキー演じる夫と安藤サクラ演じる妻。
この二人がまたいかにもな貧困夫婦で良いんです。笑

個人的に柄本祐がうちの夫に似ているのもあって安藤サクラには妙な親近感とライバル意識があるんですが(笑)

この安藤サクラはエロくて良かった。そんでこれまでなかったお母さん風も吹かせていてほんと良かった…。

話戻って、この二人は当然ながら大人なんです。いい大人。

だから自分たちがどれだけ社会から疎外されている存在かがよくわかっているんです。
特に日雇い労働をする夫の場合は自分がいくら働いても家族を養えないことが分かっているし、
いくら働いても正社員になって生活が楽になるわけでもないということを分かっているんです。

だから夫を見て「もっと頑張れよ」と思う人もいるかもしれませんが、
頑張ってもどうしようもならない社会の歯車のなかで頑張る気なんて起きませんよ。

ホームレスや日雇い労働者を見て「自己責任」「努力不足」だと罵る人。
(笑ってなくても)彼らがいるだけで顔をしかめたり、見ないようにしている人。
この人たちを這い上がれなくしているのはあなたが暮らしている日本ですよ。お忘れなきよう!

【『万引き家族』考察③】この夫婦を断罪出来るのはだれ?

家族たちが捕まって、妻(安藤サクラ)が刑事(池脇千鶴)に子どもを誘拐したことを責められます。
「子どもが欲しかったんでしょ? できなかったから、盗んだんでしょ」と。

「あなたのことを、子どもたちはなんて呼んでたの?」

というセリフに、妻は耐えきれず初めて涙を見せます。
それまで自分が子どもたちの母親になっていたことに気づいたからです。
(メイキングによると、このセリフは安藤サクラに聞かされずに追加されたセリフだそう。
だから本当に彼女の素の演技ということでしょう)

「拾ったんです。捨てたほうにも責任があるんじゃないんですか」

「良い家族、良い親子関係というのに血縁は関係ない」ということを知らない人が多いです。
女性刑事が「あなたはそれで本物の家族になったつもりだったの?」
と妻を責めるのはそれが血縁重視の世論が一般常識としてそこにあるから。

捨てられていた子どもを拾った夫婦が教えられることが万引きだった。
これは確かに問題かもしれません。

ただ「もっとまともな大人に拾われたらよかったのに」なんて子どもは言いませんよね。
同じように「もっとまともな大人から生まれたらよかった」なんてことも。

子どもにとってはいつもそばにいて、そのままの自分を愛してくれる大人が家族なんです。
つまり、この夫婦の誘拐を断罪できるのは子どもたちだけです。

決して、この家族を見捨ててきた社会ではないんです。

【『万引き家族』考察④】『絆』という問題提起

是枝監督もインタビューでおっしゃっていたんですが、
私も3.11以降言われるようになった『絆』が何に対して言っているのかわかりません。

『キズナ』というタイトルのJ-POPもあれ以来めちゃくちゃリリースされました。
聞いてみても絆について何が言いたいのかわかりません。

「日本人のキズナを大事にしよう」「大変なときだからキズナを…」

果たして絆と言ってつながり合うことだけが大事だとも思いません。
私のように、親や兄弟たちと絶縁しているような人間にはわからないことなのかもしれませんけどね。

とにかく、あまりに抽象的でよくわからないんですよ。

きっとみんながみんなその何かわからない『絆』を求めてさまよい、
ある意味運命的にたどり着いた場所がその都内にあるおばあちゃん(樹木希林)の暮らしている
ボロボロの平屋だったんです。

それぞれが傷つき行き場もなくして漂い、ようやく流れ着いた浜辺だったんです。
絶望していてもそれを覆い隠すようにして笑い合い、一緒にいてくれる人間たちを「家族」と呼ばずに
なんと言えばいいんでしょうか。

「いいか。誰にも内緒だぞ。俺たちは家族だ」

この人たちが求めていたのは血縁関係でもなく、利害関係でもない本当の『絆』だったんだと思います。

だからこそ、樹木希林が夫を奪った家族にお金をせびりに行ったことは
絆を繋ぎとめるために必要なことだったんだろうと思えるし、
また万引きや妻のクリーニングに出た洋服のポケットからスルことも
何でもないような気がします。

『絆』は美しくもありますが、犯罪を犯してでも一緒にいたいと思える人間の本能を揺さぶるような
魅力があったんですね。

【個人的総評】『万引き家族』を観て

いやー、期待を裏切らない!さすが是枝監督。さすがのキャスト。
本当に素晴らしい作品でした。(子どもを義母に預けてまで映画館行ってよかった)

ネットではやたら「ホントに貧困してたらインスタントラーメン食わない」とか
「監督は助成金もらってるくせに」「犯罪を助長してる」云々。
やかましいノイズが絶えませんでしたが(かくいうあんたらはホンマに観たんか?!)

そんな中でもやはりいい作品はいい。
社会から置いてきぼりにされた人間たちに光を当て、この国の理不尽さ、
その中で必死に生きようとする人間の美しさを丹念に描き出しています。

今を生きる全ての人が観るべき作品であるし、
社会的弱者であるあなたに向けた作品でもあります。

最後に。
……劇中、やたらインスタントラーメンが食べたくなりました。

森雨より

追記:先日(6/26)自民党の二階幹事長が「この国で食べるのに困る家はない」という趣旨の発言をして問題になりました。
こういうあまりにも無知な政治家がいる限り、やはりこの一家はどこかで生き続けるんです。
虐待は減らないし、低賃金で働く労働者は夢も見られない。この発言は「弱者に冷たい国です」と言っているようなものですよね…。
そういう意味でも、多くの人に『万引き家族』を観ていただきたいと思います。

【おまけ】是枝監督のその他の作品はAmazonビデオで視聴できます

『万引き家族』の是枝監督のその他の作品はすべてAmazonビデオで視聴できます。

今回は、森雨のおすすめをいくつか紹介します!!

柳楽優弥君(さん?)を一躍大物俳優にした『誰も知らない』
『万引き家族』でも感じたんですが、是枝監督はこういう目のキッとした寂しい美少年を探し出すのがウマイですよね。笑
戸籍もなく、親にも見捨てられた子どもたちがただ淡々と毎日を暮らし、徐々に衰弱していく様を残酷に、かつ繊細に描き出しています。
子どもたちの自由な演技も必見です。

 

父とは何か。親とは、家族とは何か。
そう考えて自分の人生を立ち返ったときに初めて自分のことがわかる…ということ。毒親育ちの方々なら共感できる箇所も多いのかもしれません。
福山雅治主演で大ヒットした『そして父になる』ですが、どこか迷いがあり親になりきれずにいる父親っていますよね。
特に子育てに関してはどうしても及び腰になる父親のこともよく聞きます。
本当に父親になりたいと思う人だけでなく、そんな夫を持つ妻。またそんな父親に育てられた子にもぜひ観て欲しい作品です。

コメディタッチで笑えるシーンも多いこの映画。
阿部寛のどうしようもなさとぼそぼそっとした演技が光ります。(無精ひげがすごい。笑)
息子を温かく見守る母親(樹木希林)とのやりとりもグッとくるものがありますし、呆れながらも周囲の人がほんとに優しい。
失敗しても、だらしなくても「何かの役に立つにはたつ」
デキル人間だけが必要とされる人間ではないのだと教えてくれるハートウォーミングな映画です。

この他、子ども漫才コンビのまえだまえだが出演している『奇跡』や
ある一家が実家に帰省してからの人間模様を描いた『歩いても歩いても』などがAmazonビデオでは配信されています。

Amazonプライムに入会すると月額¥400で上記の映画が無料(もしくは有料配信)で観られます。

その他にも、

Amazonプライム特典

  • Amazonミュージック
  • Amazon無料配送
  • お急ぎ便無料
  • 特別セール招待


など、使えるサービスが多いので入会してから映画を観る方がお得です。

スポンサードリンク